Intel’s news source for media, analysts and everyone curious about the company.

自動運転車の普及への課題と挑戦

安全性の確保にむけて、支持が拡大するRSSモデルと冗長性を備えた2つのセンシングシステムを取り入れた、モービルアイ独自のアプローチ

 

1月に開催されたCES 2020では、未編集の25分間の動画で、交通量の多いイスラエルの都市エルサレムの一般道を走行するモービルアイの自動運転車を紹介しました。この動画を公開した目的は、何よりもまず透明性の向上です。モービルアイのテクノロジーに備わる優れた性能を証明したいのはもちろんですが、それよりも、自律走行車(AV)がどのように機能・制御するかを世界中に示すことで、AVに対する社会からの信用を得ることでした。

この取り組みの一環として、今回はモービルアイのAV開発で利用しているエルサレムの車道160マイル(約260キロメートル)の一部を走行する様子を撮影した40分間ほどの新たな未編集動画を公開します。ロボットエージェント(AV)の意思決定ロジックの詳細を正確に示すため、ドローンを使って、その走行状況を追跡していますが、走行中での中断は唯一、20分を経過したあたりでドローンのバッテリーを交換したことです。動画にはナレーション(英語のみ)を付けて、モービルアイのテクノロジーが、どの場面で、どのように、走行中に遭遇するさまざまな状況に対応しているのか説明しています。全行程をご覧いただける動画はこの下に、また、特に自動運転車両が走行するにあたって、レベルの高い意思決定を求められるエリアのハイライト(各2分以内)は最下部にまとめています。

 

今回この動画を公開することは、AV 開発を推進するモービルアイの、業界でも突出した独創的なアプローチを明確に示す機会でもあります。モービルアイが解決しようとしているのは、マスマーケット展開に対するチャレンジです。AVが約束する未来は、大規模な導入によってのみ実現されます。まずはロボットシャトルを利用したライドシェアを手段とし、その後に個人向け自動車提供が続きます。AVの大規模な展開を推進するうえで、コスト、HDマップ(高精度地図)の普及、そして安全性が主な課題です。そして、安全性は、ソフトウェアとハードウェアのアーキテクチャーを設計する上でも、すべてにおいて優先されるべきです。

 

2017年に、モービルアイは安全性の概念を公表しました。この概念は大きく2つの見解に基づいています。1つ目は、車線の合流時などの意思決定プロセスでの判断ミスが原因の事故は、「運転操作における『注意する』とはどういうことか」を形式的な方法で明確化することで、確実に回避できるということです。これにより安全性と利便性のバランスが定義されます。モービルアイの責任感知型安全論(RSS:Responsibility Sensitive Safety)モデルでは、例えば「優先通行は譲られるもので、自分から取りにいくものではない」といった安全な判断を行うために想定されるパラメーターを持っています(なお、このパラメーターはすべて、規制・標準化団体と協同で策定されます)。さらに、RSSモデルでは前提条件の範囲内で、起こり得る最悪のシナリオを想定し、路上のほかの利用者がどのような行動をとるかもふまえているため、それ以上の予測を立てる必要がありません。RSSの理論では、AVが前提条件に従い、この理論で定義された走行をするならば、意思決定をするAVの頭脳は決して事故を起こさないことを証明しています。そういった理由から、RSSは確固たる牽引力をもって世界中で奨励されています。その一例として、2019年後半には、IEEEがインテル主導の新しいワークグループを立ち上げ、AVによる意思決定の標準規格となるIEEE 2846が策定されました。このグループの参加メンバーは、AV業界全体を代表しています。これは私たちにとって非常に心強いことです。業界の包括的な連携によって、近く重要なマイルストーンに達することができ、それによりAV業界全体が押し上げられ、前進していくでしょう。

そして2つ目の見解は、モービルアイのシステム・アーキテクチャーに計り知れない影響を及ぼしました。ロボットドライバー(AV)の判断プロセス上、(例えばRSSで決定されると想定した場合)センシングシステムで故障が発生すれば、事故につながる可能性も排除できません。センシングシステムは、ソフトウェアがインストールされたカメラ、レーダー、LiDARで構成され、センサーが収集したローデータ、特に路上の他の使用者の位置や速度といったデータを「周辺環境モデル」に変換します。センシングシステムが見落とす、または計測値の算出を誤る可能性は常にあり、その確率は極めて低いとしても、路上の歩行者なのか、動かない障害物なのか、関連オブジェクトを見誤って事故を引き起こしてしまう危険性がないとは限りません。

 

このシステム・アーキテクチャーを開発する場面でのモービルアイの取り組みをさらにご理解いただくため、ここでもう少し背景(簡単な計算)を説明させてください。米国内の総走行距離は年間で、怪我や損傷を伴う事故の発生数は約 と言われています。平均的なスピードを時速10マイル(時速 16 キロメートル)とすると、平均故障間隔(MTBF:mean-time-between-failures)は5万時間相当の走行となります。ここで、人間のドライバーよりも10倍、100倍、1,000倍優れたMTBFを誇るAVを設計することを想定します(AVが人間のドライバーと路上で共存するためには、AVが人間より運転能力に優れていないといけませんから、この計算では「人間のドライバーと同等」という条件は除外しています)。10万台のロボットカーを配置し、ロボットシャトル・サービスを大々的に展開したとします(ライドヘイリングを提供する企業の増加に合わせ、数十の都市に対応するのに必要なのが10万台と現在想定されています)。ロボットシャトルがそれぞれ1日当たり平均5時間走行したとすると、10倍のMTBFで設計した場合、1日の事故発生数は1件、100倍の設計では週に1件、1,000倍の設計では3か月に1回の事故件数と算出されました。社会的な観点から見ると、道路上の車両すべてが10倍長いMTBFになれば、非常に大きな偉業が成し遂げられたように思えますが、配車サービス業を提供する側からは、毎日1件の事故が発生するなど、財務的にも世間的にも受け入れられない結果です。AVのマスマーケット展開を目標とするならば、確実に1,000倍のMTBF設計で最小限度内にとどめることが必須要件になります(それでも、3か月に1件の事故発生は、やはり不安要素であることに違いありません)。MTBFが1,000倍となると、5,000万時間相当の走行に換算され、ざっと見積もっても5億マイル(8億キロメートル)の距離です。このMTBFを実証する目的で膨大な量のデータを収集するだけでも負荷が高く、そもそもこのレベルのMTBFを実現できるセンシングシステムの開発などは言うまでもないでしょう。

 

ここまでで、モービルアイが開発するシステム・アーキテクチャーを選択する背景を紹介してきましたが、このような野心的とも言えるレベルのMTBFを実現するには、センシングシステムに冗長性、具体的にはシステム内センサーの冗長性と対となるシステムの冗長性を備えることが必須であることをご理解いただけると思います。iOSとAndroid OSのスマートフォン、その両方を持って万事に準備しているようなものです。2つのスマートフォンが同時に故障して使えなくなる確率は低いように、AVの世界でもカメラのみをベースに走行できるシステムを搭載して完全にエンドツーエンドの自律走行車を開発し、別途レーダーとLiDARを使用して走行する完全に独立したシステムを開発すれば、異なる2つの冗長性をもつサブシステムを備えていることになり、両方のシステムで同時にセンシング機能の不具合が発生する確率は劇的に下がります。これはセンサー・フュージョン技術に的を絞っているAV業界の他社が採用しているセンシング機能の手法とは大きく異なります。まず、カメラのみで走行できるシステムを搭載したAVの開発ははるかに難しく、センサーデータをすべて同時に融合させて走行するシステムをもつAVを開発するのとでは比較になりません。ご存じのとおり、カメラは極めて扱いづらく、距離情報へのアクセスが間接的で、遠近感、シェーディング、モーション、形状などのキューに基づいているためと言われています。カメラのみのAVシステムを構築する仕組みは、CESでの講演(当動画の12分の位置から開始)で詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

 

それでは今回ご紹介したビデオクリップについて話を戻しましょう。これらの動画はモービルアイが開発したカメラのみのサブシステムが実現した実際の走行です。ビデオクリップでご覧いただく車両には、レーダーもLiDARも搭載されていません。遠距離カメラを8台、パーキングカメラを4台設置し、撮影データは2つのEyeQ5を搭載したコンピューティング・システムで収集されます。エルサレム市街の道路は難所が多いことで知られており、路上の利用者も非常に自己主張の強い傾向があることから、ロボットドライバー(AV)の意思決定モジュールに膨大な課題を突き付けているため、走行には機敏性と安全性のバランスが求められますが、RSSフレームワークを活用して確実にバランスを保った走行ができていることをご覧いただけます。

今後も引き続き、AVのマスマーケットでの展開に向けて、進捗状況とインサイトをお伝えしていきます。さらなる最新情報にご期待ください。

アムノン・シャシュア博士は、インテル コーポレーション 上席副社長 兼 モービルアイ 社長 兼 CEOです。

インテルについて

インテルは業界のリーダーとして、世界中の進歩を促すとともに生活を豊かにする、世界を変えるテクノロジーを創出しています。ムーアの法則に着想を得て、顧客企業が抱える大きな課題を解決する半導体製品を設計・製造し、その進化に向けて日々取り組んでいます。クラウド、ネットワーク、エッジ、あらゆるコンピューティング機器のインテリジェント化によりデータの価値を最大化し、ビジネスと社会をより良く変革します。インテルのイノベーションについては、https://newsroom.intel.co.jp またはhttps://intel.co.jpをご覧ください。
* Intel、インテル、Intel ロゴ、インテルのマークは、米国およびその他の国におけるインテル コーポレーションの商標です。
* その他の社名、製品名などは、一般に各社の商標または登録商標です。